海ちゃん

椎名さんは続々著書を出して、まるで浜崎あゆみ状態だ。
もう新刊『海ちゃん、おはよう』(朝日新聞社)が並んでいた。もちっと渇望感を煽った方がいいんでないかい?
これは私小説で、海ちゃん”というのは、主人公の長女の名前。
ざっと立ち読んだら、結婚早々デキチャッテうろたえるところから始まり、娘の誕生で次第に父親らしくなるといった話だった。

おもしろいと思ったのは、登場人物の名前の付け方。
ニュアンスやエピソードを残しつつ、ちゃんとそれらしい名前にしてある。
実際の名前が本ではこうなっていた。

ぼく:渡辺誠 (本名) → 原田勇
妻 :一枝 (いちえ) → なみえ
娘 :葉 (よう)  → 海(うみ)

一つの枝に葉がひらくという意味で名付けられた「葉ちゃん」は、波よりでっかくて元気がいい「海ちゃん」になった。うまいなあ。
そして、誕生後出張ですぐに会いに行けなかった「ぼく」は、初めて会った娘にこう言うのだ。
「おはよう、うみちゃん」
ここまで読んで、泣きそうになったから立ち読みは打ち切りだ。買うしかないかぁ。

数年前の『はるさきのへび』の中にも「海ちゃん、おはよう」と言う同名の短編があって、それも娘とぼくの話だ。ぼくの名前も妻の名前も違うのに、娘の名前はここでも「海ちゃん」だった。
海が好きな椎名さんは、本当に海ちゃんと名づけたかったのかも知れないなあ。

「私のことをあんまり書いちゃだめ」と小さな娘に釘をさされていてたから、今こんな風に1冊の本にできるのは、きっとうれしいに違いない。